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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

はははは」

「私の住む草庵はすぐ彼方の木蔭、供御の茶もございまする。お一碗如何でございますか」

「それは、願うてもない。……じつは先年帰国のさい、あんな不慮の事件がなければ、すぐにもおん許を訪うて、言伝てせねばならぬ用もあったのです」

「もし覚一のことなれば、その後、都の便りにも見ておりまする。どうぞ、お忘れ下さいませ」

「いや、ほかに頼まれた一と品もあって」

「あの子から」

「いかにも」

「ま。何でございましょうなあ」

「そうだ。いちどもどって、すぐ御草庵へ伺い直す。……高氏、あとから参りまする」

彼は、御霊屋の内へかくれた。そして置文の空筥を、元の御厨子ノ壇へ深く納め、大急ぎで屋形へもどった。

自室へ入って、白い小袖や袴を解きすて、色の狩衣に着かえると、すぐにまた出て行った。庵のある小柴垣は、屋形と鑁阿寺との途中の森の小道だった。

尼は、泥炉に、茶を煮て、待っていた。

庵はもちろん手狭だが、軒ばの木々の芽ざし、簀の子(縁)に垂るる卯の花の朝露、清楚、眼を洗われるものがある。

この人は、母の義妹、すなわち、自分には義理の叔母だ。高氏は、身内の中に、かかる人もいたかと、いまさらの如く見直した。