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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

高氏は犬好きでない。犬も、犬嫌いな人間はすぐ嗅ぎわける。

特に雷霆は狼に似て、猜疑ぶかく、この巨犬には犬奉行の配下もみな怖毛をふるって“犬神”ともよんで敬遠していた。事実、なんど咬まれているか知れないのだった。

「ちッ、ちッ」

と高氏は、口を鳴らす。――しかし彼の鎖は、馬を曳くような所作で犬を曳いた。犬神はたちまち彼を小馬鹿にする。勝負庭へ入る“放ち門”までは不承不承歩いたが、もう、テコでも動く態ではない。

「こらっ、歩け、歩かぬか」

彼は自己が憐れになるほど、犬神のごきげんを取り、手くだをつくした。

が、人語は犬の知るところではない、と承知のような踏ン反りだった。その鼻ヅラで周りの人間どもをねめまわしている。

事情を知らぬ犬同心や組子の輩は、高氏がこの獰猛な物をどう扱うかと、ただ興味の下に見ているにすぎない。

「えい、面倒な」

つい、持ち前の業腹を起したらしい。汗の額に青筋が立った。しかし彼は、近ごろ心に誓っている。今日もまた、どんな卑屈にも忍ぼうとしていた。彼は犬神の後ろへ寄って、その巻き上がッている腹へ両手をまわした。抱きかかえて通ろうとしたのである。