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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

――ぎゃんっ

と、犬神は大魚みたいに刎ね返ッた。とっさに、咬まれたのか、高氏の手くびがぱッと鮮血にそまった。が、高氏は一騎打する武者みたいに、転けつつもすぐ組ンで、そのまま放ち門の内へ駈け入った。

犬神は怒った。

下へおかれるやいな、高氏へ跳びかかった。彼は身を交わしつつ、鎖の端を持って、勝負庭の四角に立っている地鎮柱のぐるりを転び転び逃げ廻った。

こんな図は“犬合せ何十番”のうちにもない。群集はわけもなく笑いどよめいた。いや、女房桟敷や諸大名の顔は、みな笑い囃して鳴りもやまぬ噪ぎである。わけて高時は、自分の考えが図に中ったのをよろこんでか、児童のように狂喜した。

「あれ見よ、あれを」

例の奇声で、きゃっきゃっと笑いこけながら、何か頻りに手を振って、

「もうよい、もうよい」

叫んでいる風でもある。

だが、高氏は止めることが出来ない。三度巡れとの君命は果したわけだが、犬神の牙が踵を尾けて離れないのだ。彼はついに鎖を捨てた。そして元の放ち門へ駈け込もうとすると、再び背へむしゃ振りつかれた。それを、どう叩きつけて来たかは、あらしの如き人間の狂気じみた喊呼にも吹かれて、全く覚えもない。