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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

――すべては、高氏さまのためと思うて、耐えてくれと、説いたのであった。

もちろん、藤夜叉は、容易には手放すまい。もしどうしても、彼女が得心せねば、不びんながらと、さいごの手段も腹にきめていたのである。……が、ついには藤夜叉も、涙ながら承知した。それが、小殿のため、和子の将来のためならば、と。

義父の花夜叉にも黙って、彼女は諜し合せた場所へ不知哉丸を抱えて来た。そして泣く泣く右馬介の手へ渡した。――右馬介は、馴れぬ手に、和子を抱き取って、別れぎわにこういった。

「あすの宵、小壺の上の小道にてお待ちなされ。きっと、高氏さまとお会い出来よう。右馬介が、お供して、かならずお連れ申しあげる」

伊吹以来のこと、この鎌倉へ来てからのこと、藤夜叉の積もるはなしは、ここで、とぎれた。

自分の語る自分に泣かれて、彼女はしばらく、声もない。

高氏は、ただ一言、

「ああ、そうとは知らなんだ」

憮然として、そう呟いたきりだった。

とはいえ、その短い一語には、大きな悔恨がこもっていた。

「……そして、右馬介は、どこへ行くといっていたか。……藤夜叉、そのことは、そなたにも告げなかったか」