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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁
などと、全家の憂いをあげて、八方せんぎの手をつくしたところが、なんと、姫を盗んだ下手人は、皇太子尊治の君とやがて知れた。
おひとりでは出来ない芸で、これには日頃の御学友なども加担していたにちがいない。が、さすが乳父吉田定房の家には連れず、よそに隠しおかれて、こよなき恋の巣と、潜んでおいでだったものである。相手が相手、西園寺家の方でも、やがて、鳴りをひそめてしまったのはいうまでもない。
皇太子の姫盗みに会われた西園寺家の末むすめは、禧子というお名であった。
しばらくは、皇太子との浮名沙汰など姦しく、他所に隠されておいでだったが、やがて年経て、はからずも尊治が万乗の君となられたので、禧子にも女御入内の宣旨がくだり、またほどなく立后の儀も挙げられて、いまはただしく今上後醍醐の皇后と仰がれる御方とはなっている。
「なにが御運かしれぬものよ」
と、ひとは羨み、皇后の父実兼なども、
「――この齢になって」
と一家の栄えをほくほく顔とも聞えたが、しかし、皇后には、いくほどもなくお淋しげな影が深まっていた。
皇后の侍きに、阿野中将の女で廉子とよばるる女性があった。廉子の美貌はいつか天皇のお眼にとまって、すぐ御息所の一と方となった。