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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

言いかけて、俊基は、ふと眼を庭面へそらした。

そこに、うずくまっていた家職の侍、後藤助光の姿に、ふと気づいたからだった。

「助光、またしばらくの留守となろう。あとを頼むぞ」

「口惜しゅうはござりまするが、ぜひもない儀と、つい今ほども、北ノ方さまを、お慰め申しあげておりました」

「それよ。そちを、宮門より先に走り返らせたのも、まずもって、小右京に覚悟させおいて欲しいためだった。……この期に、何を嘆こうぞ。助光、下部に命じて庭なと掃き清め、書院に夜の支度をしておけ」

「はっ。おん名残の夜を惜しませなされますか」

「思えば、わが妻ほど、あわれなるはあるまい。つい先頃、長の旅から帰ったばかりを、また先知れぬ囚人輿の良人を見送らねばならぬ」

優しいことばは、かえって、小右京のつつしみを寸断にした。

良人の袖の蔭に身もだえの唇を噛んで「……いいえ」と、その黒髪は顔を振るらしかった。

常々、諭されていたこともある。

この期になって取り乱すのは、日ごろ良人からいわれていた誓いを違えることだった。「泣くまい、あなたの妻です、覚悟はしていました」と理性は言いたいのであろう。