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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁
俊基は、何度も耳を疑った。そしてついに室の障子を開け、そっと廻廊の闇へ首を出してみた。どうも、声は床下らしい。
つい先刻まで、廻廊の角に頑張っていた警固の者も、宿場の灯にそそられて行ったか、いつのまにやら影も見えない。
と、見さだめて、
「たれだ、床下に潜む者は」
俊基は、廊の欄の際まで身を辷り出して行った。そしてその上半身を、欄に屈ませると、
「おっ。蔵人さま」
まぎれなく地には人影があった。べたと土に這い伏したまま、上の人をじっと見上げている。
膏薬売りか針売りか、とにかく、そんな風態の旅商人――。
俊基は、警戒した。うかとは口も開けない気がして、なお、しげしげとその顔を見まもっていたが、
「や、そちは」
仰天せざるを得なかった。
すると、下の影は、そのまま地底へでも消え入りたそうな姿をした。そのうえさらに、その頭巾額を、地にすりつけて。
「船木頼春にござりまする。……生きて、おん前に出るなど、死以上の苦痛にござりますが、妻の嫉妬から、思わぬ大変事を惹き起し、兄左近のみか、御一味の方々にまで」
「あ。待て」
俊基は彼の声を抑えて、要心ぶかい眼をくばった。