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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

――伝次はつくづく考える。武者も廃って来たものだが、世も六道ノ辻そのまま、ひどい地獄の相に近づいて来たものだと思う。

日のみじかい秋。

朝は暗いうちから、駅路を早立ちして行く旅人が多い。

何かと、身支度一つにも、手間どりがちな草心尼母子でさえも、豊川ノ宿を離れて、吉田川のほとりに来たころ、ようやく霧の中に、虹色の大きな朝陽を見たほどだった。

「お母あさま。ここから先、二里ほどは、本野原といって、道の辺は、柳の木ばかりでございましょう」

「よう知っていやるの。見えるように」

「でも、覚一は以前、二度も通っておりますもの」

「ほんに、そなた程も母は知らぬの。鎌倉から西は初めての旅」

「ここは、よう旅人が迷うので、遠い以前、北条泰時さまが、本野原の野路のかぎり、道しるべの柳をお植えになっておかれたものと、聞きました。……ねえお母あさま、その頃の御執権は、えらかったのでございますね」

「どうして」

「だって、昔の御執権は、旅人の上にまで、そんな思い遣りがあったのでしょう。……眼には見えませんが、きっと、沢山な柳の木も、その頃よりは、減っていると思います。吹き仆れたら仆れたまま、枯れたら枯れたまま、荒れているにちがいありません」