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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

「いうとおりじゃ。柳並木も名残りのみで、凄まじい荒野原のままに任されている」

「それがそのまま、いまの世の景色です、政のすがたです。海道の途々でも、いろんな人たちの声を、耳にしましたものね」

「どんなことでした?」

「貧しい者の怨み言やら、物盗りやら喧嘩沙汰やら。……それに、どこの守護も地頭も、強欲で情け知らずと、憎まれていて」

「飢饉つづきのせいもあろ」

「ええ今年も稔りが薄いといって、怯えていました。だのに若い人すら働く気がなく、博奕流行り、踊り流行り。親殺しだの、子殺しなどと、いたる所、そんな噂ばかりでした」

「まこと、鎌倉の御繁昌と比べては、思いも及ばぬことばかりよの」

「いいえ、上のお暮し方を、自然、世の人が真似しているのでございますよ。……でも、お母あさん、その鎌倉の内を、まずはようやくのがれ出して、いくらかホッとなすったでしょう。遅かれ早かれ鎌倉の府は、今にきっと、兵馬の巷にならずにいません。あのままで治まろうはずはありません。足利さまの御兄弟も、密かに、やがてを待っているのではありますまいか」

そのとき、一ツ杖の両端を持ち合っていた母の手が、しッ……と言葉代りに動いて、覚一の口をつぐませた。