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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

馬子寄場がある。今切藤五が、馬をすすめたが、覚一は、連れになった旅の女性と話が出来なくなるのを惜しんで、

「それほどな坂でもなし、歩きましょう。歩きましょう」

と、母と彼女のあいだに扶けられつつ、依然、都ばなしや、諸芸のはなしに、他念もない。

その人々の背へ、藤五は、さっきから、眼を光らして。

「八郎太。何だろうな。あの市女笠の女は」

「さあ、わからぬが、鄙には稀れな美人。貴公はまた、あれにも心をうごかしたのか」

「ばかをいえ」

藤五はすぐ後ろを振向く。――要心の的の御厨ノ伝次は、二十歩ほど後ろから、気のせいか、恐い眼つきで、ゆっくりと歩いて来る。

「なあ、八郎太。いやに、馴々しい女だぞ。おぬし、訊いてみないか。どういう素姓で、どこへ行く者か」

「よし」

八郎太は、たちまちそばへ寄って行った。そしてしばらく、女に話しかけていたが、すぐ戻って来て、藤五の耳へいた。

「わかった。矢矧の長者のむすめだそうな」

「すると女は、矢矧まで、道連れになるつもりか」

「いや、途中、建部ノ神官の家へ寄るとかいっていた。どこかで別れるつもりだろうよ」

やがて午ごろ。――宮路山で山茶屋を見かけ、昼の旅糧(弁当)を解こうとなった。