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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁
そして、大蔵の眸が道の左右の方へ向って、少し動いた機を外さず、
「突け、菊王っ」
頼春はおめいた。もちろん、彼自身も振りかぶった太刀と共に躍りかけた。
しかし、二人の皮膚には、眼で見たものでない圧力がとッさに迫った。で、起した行動は、無意識に、当の大蔵を措いたまま、ぱっと後ろへ跳んでいた。
「や。しまった」
次の事実は、単なる感覚でなく、二人がその眼でまざと見たものだった。
いつのまにか。――この天見の雑木林をつらぬく一と筋道を縮めて、二人の両方から、忍ノ大蔵とまったく同じような山伏姿をした放免仲間がおよそ十数名、じわじわ詰め寄って来ていたのだった。
大蔵の落着きと、そのからかい口調は、時を稼いでいたものに違いない。「――それっ」と手を振るやいな、彼自身は、後ろの灌木の茂みへ、野狐のごとく、がさッと一瞬に影を隠した。
あとで考えれば。
とッさに、忍ノ大蔵が、すばやく灌木の叢へ身を沈めたと見えたのも、じつは視覚の錯乱で、とたんにどこからか飛んで来た最初の一ト矢に射られて、彼の意志でもなく、もンどり打っていたものかもしれなかった。
ぴゅん――
と、あきらかな弦音が、ややおくれて聞え、すぐ三の矢、四の矢の矢光りが、彼の姿を呑んだ灌木帯を目がけてシュルシュル鳴ったのを見ても、それはほぼ確かなことといっていい。