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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

道は登るばかりであった。丹波境の重畳たる山が、巨大な夜の胸を押しつけていた。

「……ただ、かえすがえす惜しかったのは、堂上ではいかなる人か、または今、官職なき町公卿か、その名も訊かれぬことだった。が、いつかはまた」

急に、ぷつんと黙ったのは、そのとき、山蔭の出会いがしらに、数名の人影と松明の光が、彼の瞼を射たためであった。

土地の武士か。若党三人を前後に連れ、ひとりは胴巻姿で、馬上だった。

なにか高声で通りかけたが、ふと道をよけて佇んでいた又太郎主従の影を不用意に知ると、ぎくとしたような駒驚きを脚もとにひびかせた。

「……旅人か?」

と馬上で言ったようである。

不慮な山中の遭難者はめずらしくない。武士でさえも小勢だと、しばしば裸にされたり、みなごろしに遭ったりする。こんな物騒さは又太郎も、道中耳に飽いたほどだが、洛中ですら群盗の出没は、都名物の一つと聞かされたには、唖然とした記憶がある。

「……旅人でおざる。お通りください」

右馬介が、親切に言った。道は谷添いなので、馬を交わすのがせいぜいなのだ。

しかし、馬上の顔も若党たちも、じっとこっちを確かめている風で、たやすくは前をよぎりもしない。