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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁
――東より
きのふ来たれば
女も持たず
この着たる紺の狩襖と
娘、換へ給べ
――楽器には絃楽器はなく、簓、腰鼓、フリ鼓、銅子といったような類。演し物によっては笛もつかう。
おどけを主とした舞踊である。
遠いむかし。
地方の民が、大蔵省へ馬で貢税を運び入れながら唄った国々の歌が催馬楽となったといわれるが、田楽ももとは農土行事の田植え囃子だった。それがやがて、都人士の宴席に興じられ、ついには近ごろの如く、本座、新座などの職業役者をも生むような流行にまでなって来たものだとか。
「……東より……昨日来たれば……妻も持たず」
興にそそられた高氏が、ふと、膝がしらを鼓として、指と小声で、踊りの曲を真似てると、となりの遊女も、その流し眼に媚びを凝らして、おなじ節で。
「……着たる紺の……狩襖は要らじ……聟とせむ、聟とせむ」
「ほほほほ。小殿も決しておきらいではございませんのね」
「酒か」
「いいえ、田楽」
「酔うにつれて、いつか舞台も面白う見えてきた。先頃、七条河原の掛小屋で見たのも、この花夜叉の新座であったが、何で人々が、さまで持て囃すのかと、ふしぎであったが」
「いずれは、小殿のお国でも、鎌倉にも負けぬほどな田楽流行りを見ることかもしれませぬ」