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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
すべて兵は悲壮になっていた。また、正成の死の覚悟を、たれひとり疑っていた風でもない。
「はて、変だぞ?」
早くも見たのは寄せ手方の陣である。すでに夕方ぢかくから、しきりに、さぐりの勢で小当りに当らせていたが、山上の常ならぬ気配を知ると、
「さては、死にもの狂いの苦計に出て、深夜の逆襲せを謀っているにちがいない。奴らの酒もりがすんで、宵寝に入ったと見えたらそれが機だ。ぬかるな」
と、大挙の姿勢をくずすなく刻々と更ける夜をにらまえていた。
やがてのこと、砦は降る落葉の下に余煙も消えて、ひそまり返った。と、たちまち、山下にとどろくものがあった。武者声である。陣鼓である。はやわれがちに三方の崖を漆光りの甲冑やら刀槍の影が、おめきおめき、よじのぼっている。
喊声は、城中にも揚がッた。「――敵にも、さいごの馳走をしてやれ」と、一人の城将のいった声が、特に大きく寄せ手のうえに聞えた。およそ、あるかぎりな矢も、これぎりとする大木や大石も、地鳴りとともに降って、崖の肌から敵影をなだれに捲いて拭き去った。
人海戦術などという意図でなくも、寄せ手はしぜん大軍の量にものをいわせている。