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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
こう聞えたのは、背のきみの後醍醐のお声だった。――帝の朧な影は、そこの廊の欄を境に、手も届くばかりな所に見える。が数尺のへだては、絶対な鉄の隔離を掟づけ、すがり寄って泣くのもゆるされない今朝のお別れなのだった。
いや。まだしもこれは、皇后の禧子にすれば、おもいがけない倖せとしなければならない。……しょせん、お目にもかかれまいと、ゆうべまでは野々宮の女院の深くにただ悲しみ沈んでいたのである。
ところへ、佐々木道誉と名のる大将がおとずれて、
「隠岐へお立ちのまえに、仰せには、中宮に一と目会わでは心残り、それ計らえと、この道誉へ畏きお頼みでした。が、院(新朝廷)のみゆるしを待つひまはなし、ぜひなく道誉一存にて、ご案内にまいった次第。ご疑滞なく、すぐさまお身支度を」
とのことだった。
それはもう夜半すぎだったが、中宮はとるものも取りあえず、車にかくれた。そして道誉のみちびくまま夢心地に六波羅へ来たのであるが、急ではあったし、去年いらい、わが良人の帝を見るのは百九十日ぶりのこと……。何から言ってよいやら、大事な時間は、むなしく刻まれてしまい、ただ涙に過ぎるばかりだった。