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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
「はて。ここも地の利であるまい」
と、たちどころに、御座をめぐる人々の間から、ここを不安とする説が出た。余りに、山奥すぎて、糧道の難すらあるというのである。
「さらば、笠置へ。……幸い、笠置は、この聖尋のあずかる管下の寺でもござりますれば」
と、あくる日、彼はさらに、天皇の御嚮導に立ち、犬打峠から杣田の難所を越えて、笠置の山へさして行った。
天皇、その日の御詠に。
うかりける身を秋風にさそはれて
おもはぬ山のもみぢをぞ見る
一方。
天皇脱出と分った後の都こそ、たいへんだった。
上下、唖然としたのは、いうまでもない。また、そのとつぜんな真空が呼びおこした旋風は、たちまち満都にわたって、木の葉のごとき兵馬の哮びを吹き起した。
その六波羅の軍兵が、まずまっ先に殺到したのは、当然、二条富小路の里内裏であった。――それが二十五日の早暁。すでにみかどは、宇治の辺まで、落ちのびられた後である。
もし、このさい、武者の誰でもあれ、
「早よう、奈良街道へも手をまわせ」
と気転をはたらかせていたら、駻馬の一ムチ、天皇はその日に囚われていたことだろう。
何しても、六波羅の抜かりは、みかどの僥倖であった。