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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

ともあれ、旅が山路へかかったら、つねに油断なく身を持っておれよ」

そのとき。

廉子の眼が、なにかを告げた。帝はすぐお口をつぐむ。――すると、障子の外を、裳の人影が、さやさやと通って行った。やがて遣戸の音に耳をすましていると、それは小宰相の居間へ入ったような気がされた。

「…………」

帝はまた、お手にしていた宗良の文に眼を落す。それは、懐紙へ走らせた薄墨がきの歌でしかない。歌のほか、なんの消息の端も書いてはないが、帝はなんども、くりかえされた。

まもなく、灯がともる。

あすの夜は、日女道(姫路市)の府か、今宿か。

そして美作境へ向っても、山陽道へ出ても、それから先は、一路出雲まで中国山脈の脊梁と聞く、その山波が、誰の旅寝の夢にもあった。

道中、夕は早くに、朝は早立ちを本則としていたが、とかく妃たちの身化粧なども手間どって、早いその朝立ちは容易でない。

さらには、千に近い人馬である。それがすべて腰糧まで身につけて、宿を立つには、朝々一ト騒ぎであった。

「ちと、大兵すぎたな。この半数でも、足りたものを」

「京を立つさい、なぜか俄に、佐々木殿が増員をとなえたためだ」