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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
なんど繰返すのかしれなかった。
そのうちに、時ならぬ雷鳴が、因幡から伯耆ざかいの山岳を晦冥にして鳴りはためいた。山国のいかずちは、都のそれと一つにも思えない。――やがては風を孕んだ霧とも驟雨ともつかない真っ白な水粒の怒濤が列を撲ッて吹き通って行く。――人馬はしばし、声を呑んで、立ちすくみに、行きなやむ。
「春雷だ!」
道誉は、狂う馬をしぼッて、
「長くはない。すぐ止もう、すぐ止もう」
ひとり声を嗄らしていた。
はたして、まもなく雲の断れまから虹のような陽がこぼれて来た。――見れば輿も人馬の列も、粉雪のような白い斑に染まっていた。山国の遅桜が、いまの一過の狂風に、どこからともなく散々に花をくだち降らしていたらしい。
「ああ、大きい景だ。こんな大観は都では見られぬ。まぢかな南の山は、久米の皿山。遠い雲の帯の上なるは伯耆の大山か。……これや上にもお珍しかろ。輦輿を下ろして、しばし、御覧に入れたてまつれ」
道誉の命に輿を休めて、兵たちも、具足の袖など絞りあっていた時だった。後ろの方から一陣の兵馬が、それこそ、いま過ぎた驟雨がまた返って来たように、まっ黒にここへ向って近づいて来た。