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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

彼にある是非ない残忍なものが、しきりに杯を吸い、また藤夜叉の窶れた美に、密かな舌なめずりを思うのだった。

藤夜叉は、身をずらせた。少しずつ、後ろへと。……そして、女が女の身をまもるときの姿態を硬めた。

「はははは。藤夜叉」

急に、道誉は相好をくずしてみせた。といって、女のこまかな用心は解けようもないのである。

「思い出すぞ」

しかし、もう竦んで動けない生き物を前においているように、道誉は自信にみちていった。

「そなたが、そうして見せると、一そう伊吹の頃の小娘がこの眼に甦えされてくる。おれを嫌って、そなた、伊吹ノ城から跣で田楽村へ泣いて帰ったことなどあったな」

「…………」

「あとで聞けば、あの頃すでに、そなたはたった一夜の客の高氏に、身をまかせていたのだそうな」

「と、殿」

「高氏の噂はいやか」

「い、いいえ。もう、おいとまを。……晨の旅じたくもございますから」

「まだ、朝には間がある。三河へ返してやることはきっと返す。いまは子持ちの女、一生側におくとはいわぬ」

「仰っしゃるとおり、子が待っておりまする。それを思うと」

「身も世もあるまい」

「それまで、ご推量のくせにして、余りといえば、ご無態な」