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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

「――さらば、笠置で」

と、そこでみな、後日を約して、別れ別れとなった。

しかし、いざとの別れになると、宗良は兄宮の後ろ姿を見送って、涙をためておられたが、大塔ノ宮は、単に一顧されたきりだった。

――男らしいというものか、烈々な壮志に燃えて他はかえりみられぬとしておられるのか、なにしろ、山野はむしろわが家居と観ているものみたいに、みるまに甲賀奥地の雲へかくれてしまった。

「いざ、急ぎましょうず」

宗良親王についていた中院ノ貞平、四条隆資なども、宮同様なタドタドしい足どりだったが、とにかく笠置をさして、ひたぶる歩いた。

笠置の山は、山城、大和、伊賀三国の三角点にそびえている。

さして高くはないが、俗に“上り十八町”といわれ、胸突き坂の一方道と、嶮峻な絶壁など、個性きびしい山容だった。

九月に入ったばかりのこと。――宗良親王は、やっとここへたどり着かれた。

見るからに、野に伏し山に寝ねて来た姿である。供の二、三の公卿たちも、びッこを曳いて、

「これは叡山より、座主の五ノ宮のおん供してまいりし者」

と、麓の木戸へ言い入れ、それと共に、

「ああ」

と、意地も我慢もなく、みな、ヘタばり坐ってしまった。