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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
農家では当然やるが、楠木家の館長屋でも、大勢の召使が、老幼のべつなく、今は柿の皮ムキに忙しそう。
干し柿は、無上な冬の甘味だった。それに、その白い粉を竹ベラで掻き溜めたものは――まだ砂糖などということばもないが――砂糖代りの上菓子に用いられ、蜂蜜や甘葛などより、はるか貴重な食品となる。
「久子」
正成は、庭でよんだ。
庭はひろい。金剛山を真正面にのぞみ、千早川を崖下にめぐらしている丘陵のここ一角は、庭といっては当らないほどな山間の自然を、ひっそりと、抱きかかえていた。
「おや。そちらでしたか」
久子は、いちど、良人の声を、居間の方へさがし廻って来たらしく、
「いつのまに」
と、ホホ笑みながら、秋の日の下に、さも徒然らしく佇んでいる良人の姿を、まぶしげに、廊の端から見まもった。
「どうしたかの?」
「爺をおさがしでございますの」
「いや、多聞丸(正行)よ」
「見えませぬか」
「また、川遊びかと思うて、崖をのぞいてみたが、今日は、どこの子供らの声もせぬ」
「では、きっと下屋ノ衆の中に交じって、柿ムキに興がっているのでございましょう。午見たときも、手の指を渋で黒うしておりましたから」