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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
すでに、それらの叫びも、誰の発しるものかさえわからなかった。火はすぐそこらの祭具や蓮華、瓔珞などに燃えうつり、解脱上人いらいの貞慶式建造の古い金壁が、にわかに眼をさましたかのごとく炎の映えに燦爛とかがやくかと思えば、また一瞬に、咽せるばかりな黒煙の底となった。――そしてその中を閃々と盲薙ぎに相手を叩き廻っていた陶山と小見山の剣光も、やがてのこと、
「次郎、もういいぞ」
「おうっ、外へ」
とばかり、廊の欄から真下へ跳び下りていた。
それを、どっと追って出た行宮の近衛武者も、欄に立つやいな、二度の驚きに、あっと打ちひしがれた。
変はここだけでなく、下の仁王堂、二ノ丸櫓、諸所の木戸や仮屋からも黒煙を噴いて、山じゅうが轟ッと火唸りしていたのであった。
笠置の嶮も、こうなると、逆に燃えやすい一ト張りの蚊帳みたいに脆かった。
急ごしらえな仮屋や櫓はいうまでもない。七院の伽藍もみな懸崖造りなので、炎は山肌を舐めずり登って、ふだん鳶の巣が見える枯れた大樹の天ッぺんにさえチロチロ赤い舌がひらめき見えた。
「麓を防げ」
「いや、山上もだ」
「さては寝返りが出たか」
「忍の者だ。