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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

「まっ赤だな、今日の太陽は」

高時は、上を見た。

たえず何か言ってないと、おそろしい寂寥に体のうちを吹き抜かれる。そしてたまらない淋しさが襲いかかり、自分を虚空へ攫ッて行きそうにでも思われるふうだった。

「見ろ……」

ふと、あたりの沈黙の陣を見て言った。堂の下、山門の蔭、広前いちめん、高時と共に在る一族御家人の影は、このかなしい主君を繞って、みな岩のように固く黙っていた。

「あの不吉な色の日輪を見ろ。この業火では蝶も鳥も生きてはいられん。こんな後で、何が生き残るのだ。生き残って何の愉しみがあるというのだ。ろくな世が来るはずはない」

たれへともなく罵ッていたが。

「秋田の延明。城ノ介延明はいるか」

「はっ。おりまする」

「刈田式部は」

「はっ。篤時はここに」

「伊具は。小町ノ中務は」

「いずれも、これにひかえております」

「武蔵ノ左近時名もいるな」

「はいっ」

「総勢どれほど?」

「お心づよくおぼし召されませ。なお千人ほどは、おそば離れずこれにおりますれば」

――事実は、もうそんな大勢はいなかった。逃げたい者なら、谷から峰づたいに、どこへでも逃げ落ちられぬことはない。

一片の義にとらわれ、主従骨肉のきずなにしばられて、高時と共にいた者でも、ふッと、ここで姿を紛らせた武士もずいぶん多かったことだろう。