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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

「ついいま聞いたものを、これ以上早く来ようはない」

「なんのなんの。そこらの武者ばらへ、わしからは、何十ぺん、探題へ告げよと言ってあるかわからん。とき早や遅しじゃ。六波羅の守りもいまは危なかろうがの、苦しかろうがの」

「老人」

「わしには名がある」

「吐雲斎」

「なんじゃ」

「さまでとは、いったい、何を本心申しのべたいのか」

すると、吐雲斎は、

「何をいう。身のためではない」

と、むッつり顔して、だまりかけたが、また。

「探題には、まだ疑っているのか。ここにおる兵学者へ、なぜ早くに教えを乞わぬか」

「策を問えとな」

「そうじゃ」

「いくさの妙策があるというのか」

「あらいでか! 大言と聞いたかしれぬが、孫呉から大江流の兵学も究めた者とお告げしてあるはずだ。しかるに下手な戦のみくり返して、これへ物問いにも来ぬ両探題は、ばかか、うつけか、気が知れん」

「……ふうム?」

仲時は、獄中に光ってみえる茶いろの眸を見て唸った。――やはりこれは狂人だ。耳をかす値打もない、と。

が、獄中の眸は仲時の惑いなど意にしているふうでもなかった。吐雲斎の言は、彼自身の悶えらしいのだ。だから狂語でもなし、嘘でもない。