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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

「いえ、さにはございませぬ」

殿ノ法印は、べつな答えをもたらすため、すこし膝を前へすすませた。

この十月の一日――

宮中には服喪ノ令が出て、一切の慎みが守られ、市中にも数日の鳴物停止が令せられた。――ご病中だった皇后の禧子がおなくなりになったからである。

そのため宮中はここひっそりで、諸政、一頓挫のかたちだった。だが世上の推移は一刻もとどまっていず、先ごろ尊氏が、鎮守府将軍号をうけ、また御諱の一字をいただいたなどいう破格な聞えは、いよいよ武士層のあいだに、足利の存在とその実力を牢固なものに思わせ、いまや六波羅一劃は、大塔ノ宮から見ると、かねがね予想していた通り恐るべきものになりかけていた。

宮はおくちを噛む。

なんたることだ。高時を討ったのにまたすぐ次の高時が出来かけている。

聞くところによると。一部の不平の徒は彼の門へよしみを通じてゆき、彼もまたいい気になって、“元弘以来収公ノ所領、各自、相違アル可カラズ”という自署の安堵状などを諸武士へ発行しているという。まるでもうそれは主権者気どりではないか。

その彼へ、またぞろ、過大な恩賞に次ぐ抽賞とは何ごとか。