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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

みくるまは、ふもとの善法律寺に前夜からお待ちしており、ここで小憩の後、夕方までにご帰洛という順序。

律寺では点心(間食)の設けなどして、還幸のお立ちよりを、境内の紅葉とともに、お待ちうけしていた。

「やれやれ」

と、供奉の公卿たちも、ここでは山上の潔斎も解かれて、俗称“もみじ寺”の今を盛りなもみじの間を逍遥しあった。

点心とはいえ御酒も出る。

御座のあたりは、談笑にわいていた。たれの声よりも後醍醐のお声が高い。朗として、おもての方へまであきらかにお声とわかるほどだった。

「ここは秋はもみじ、夏はほととぎすの名所でもございまする」

と、右大弁清忠がいうと、

「そうそう、門前の歌碑に、読人不知の歌が、こう刻まれてありましたな」

と、堀川の大納言が、懐紙にとめておいたその歌を言上した。

すると、すくなからずごきげんな後醍醐は、隼人正藤原康清という者をとくにお名ざしあって、

「康清。そちはたいそう声が美いそうだ。いまの歌を朗吟してみよ」

と、命ぜられた。

康清は権ノ大外記にすぎない者なので階下にいたが、ひょうきんな男とみえて、

「なかなか陛下のような美音ではございませぬが、大杯で一献いただけば、あるいは、お耳をけがすぐらいには吟じられるかもしれません」