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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

六波羅数万の兵は、各戦線から急激に減っていた。

「だめだ」

と、そのころから逃亡兵の群れは跡を絶たず、公然、戦衣を脱いで空家のうちへもぐり込むのやら武装のままで山野の闇へあてなく落ちてゆく群れなど、ぞくぞく見られ出していた。死ぬためでなく生きるために彼らは拠っていたのである。その彼らの直感に大勢はもうきまったと見捨てられていたのだろう。

でもなお、洛中のいたるところでは、市街戦が交わされていた。かなしいもののふの最期をあくまでその武者だましいにかけて潔くしようとする東国武者も決して少なくはなかったのだ。とはいえ、すでに残骸の姿にひとしい五条の一橋と六波羅総門のふせぎぐらいが、よくこの頽勢をもり返しうるものとは今は誰にも思えていなかった。

「おお……。あの炎」

「やがて、ここへも」

「どうしたものぞ」

「ここを落ちよとて」

「落ち行く先はあるまいに」

六波羅北御所の仮皇居の内こそは今、どうしようもない騒ぎであった。小女房たちの悲泣をなだめてやる人すらなく、公卿すべても動顛のていだった。右往左往の影が、あらぬ口走りを放ち合い、ただ「素破や」とのみで、たれひとり生色はない。