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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十)金色の処女

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(十)金色の処女(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 137,868 字 · 278 頁

青空文庫

それから一刻ばかり。

煙草をのんだり欠伸をしたり、鼻を掘ったり、ガラッ八がいい加減退屈した頃、

「待たせたわねエ、八五郎親分」

庭木戸を開けて、そっとお篠が出て来ました。夜の闇を匂わせるような女ですが、この時は不思議にしんみりしておりました。

「お前一人かえ」

「え」

二人は肩を並べるように、中坂を同朋町の方へ降りたのですが、妙に話の継穂を失って、しばらくは黙りこくっていたのでした。

「本当に有難うよ、親分」

「そりゃ構わねえが、肝腎のお秋はどうしたんだ」

「駄目よ、やっぱり。証文を出さなくたって、奉公人に変りはないんだもの、出代り時でもないのに、無理につれて来るわけに行かない」

「そんな馬鹿なことはないだろう」

「可哀相に、本人もその気になって」

お篠の謎のような言葉は、ガラッ八の神経にも何やら大きい疑問符を投げかけました。

「山名屋に踏み止まる気になったのか」

「え」

二人はそれっきり、また黙りこくってしまいました。

朧の月、秋近いのに、春めく生温かさが、良い年増と歩くガラッ八を、少しばかり道行めかしい心持にします。

「八五郎親分、ここでお別れしましょう」

お篠はフト立ち止まりました。