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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十)金色の処女

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(十)金色の処女(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 137,868 字 · 278 頁

青空文庫

二

高々と籐を巻いたぬば玉の能管、血のような歌口をしめしながら、藤左衛門はさっと禁制の賦に眼を走らせます。

ちょっと見たところでは、なんの変哲もない、「寝鳥」の変奏曲ですが、心静かに吹き進むと、その旋律に不思議な不気味さがあって、ぞっと背に水を流すような心持。藤左衛門は幾度か気を変えて途中から止そうとしましたが、唇は笛の歌口に膠着して、不気味な調べが嚠喨と高鳴るばかり。

これはしかし、いろいろの先入心が、強迫観念になって、技倆に自信を持ち過ぎる、春日藤左衛門の心を脅かすのでしょう。

「…………」

吹きおわった笛を、流儀の通り膝の前に置いて、藤左衛門はホッと溜息を吐きました。しばらくは師匠も弟子も、物を言うことさえ忘れていたのです。

「有難うございました」

ややしばらく経って、緊張の弛んだ一色友衛は、丁寧に一礼しました。

その時、――

「わッ、た、大変ッ」

下男の作松の凄まじい声が、遥かの方から真昼の部屋部屋を筒抜けて響きます。

二

「どうした」

「何が大変だ」

家中の者が、八方から集まりました。作松が呶鳴っているのは、中庭に背いて、庭木戸に面した、二番目娘あやめの部屋の前、踏石の上に立ったまま、縁側へ手を突いて、部屋の中をのぞく恰好になったまま、なおも気違いじみた声を張り上げているのです。