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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(一)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 231,525 字 · 463 頁

青空文庫

その遣るせなさを嫋々と愬えている。芸に陶酔してか? ――或は、そうした感情のようやく乱れかけて来たものか、お通の呼吸がやや疲れをあらわし、髪の生えぎわに、薄い汗がにじみ見えて来たかと思う頃、彼女の頬にぼろぼろと涙のすじが白く描かれていた。

長い曲はまだ終らない。喨々と、淙々と、咽ぶ限りを咽んで、止まるところを知らないもののようである。

すると……

ふと暗くなりかけた焚火明りから二、三間ほど先の草むらで、何か、ごそりと、獣でも這ったような物音がした。

沢庵は、ふと首を擡げて、その黒い物体を、じっと見つめていたが、静かに手をあげて、

「――そこのお人、霧の中では冷たかろうに、遠慮なく、火のそばへ寄って、お聴きなされ」

と、話しかけた。

お通は、怪しんで、笛の手をやめ、

「沢庵さん、何を、独り言をいっているのですか」

「――知らぬのか、お通さん、先刻から、ソレそこに、武蔵が来て、そなたの笛を聴いているじゃないか」

と、指さした。

何気なく、ひょいと振り向いたお通は、途端に、我れにかえって、

「きゃッ――」

と、そこの人影へ向って、手の横笛を投げつけた。

八

きゃッと叫んだお通よりも、却って驚いたらしいのは、そこにうずくまっていた人間であった。