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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(一)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 231,525 字 · 463 頁

青空文庫

ない。今の世を兵法者で渡ろうという者が、そんな心がまえであったら、月に一ツずつ生命があっても足らないことになる。

――(寝ているな)

一応は、そう考えられた。

かなり長い時間であったから、待ちしびれを切らして、居眠っているのではあるまいかと。

だが、思いのほか相手が曲者とすると、或は、こっちの空気を早く察しながら、襷股立ちの身こしらえまで十分にしておいて、わざと燈心の丁字を剪らずに、来らば――と鳴りをひそめているのかもわからない。

(そうらしい……いや、そうだ)

どの体も硬ばってしまう。自分の殺気でまず自分が先に打たれているのだ。誰か先に捨て身にならないかと味方のほうへも気を配るのである。ゴクリと喉の骨が鳴ったりする。

「宮本氏」

ふすま隣から、藤次が気転でこう声をかけた。

「――お待たせいたした。ちょっと、お顔を拝借ねがいたいが」

相変らずしいんとしたものである。いよいよ敵には用意がある。藤次はそう考えて、

(抜かるな!)

と、眼合図を左右の者に投げておいて、どんと、襖の腰を蹴った。

途端に、中へ躍りこむはずの人影が、無意識にみな身を退いた。――襖の一枚は脚を外して閾から二尺ほど股をひらいている。