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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(一)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 231,525 字 · 463 頁

青空文庫

次の日の黄昏れが窓に迫って来た頃である。あわてて城太郎が出てゆくと、入れ代って、綿屋の手代が入って来た。間もなく、勘定書が届けられ、武蔵はその間に、出立の身支度をしているのだった。

「お夕飯は」

と、宿の者が訊きに来ると、

「いらぬ」

という彼の返事。

小茶ちゃんは、ぼんやり部屋の隅に立っていたが、やがて、

「旦那はん、もう、今夜は、此宿へ帰って寝ないの」

「ウム。長い間、小茶ちゃんにもお世話になったな」

小茶ちゃんは、両方の肱を曲げて、顔をかくした。泣いているのである。

――ご機嫌よう。

――どうぞお気をつけて。

綿屋の番頭や女たちは、門口に並んで、この山国をどういうつもりか黄昏れに立つ旅人へ、人里の声を送った。

「? ……」

そこの軒を離れてから後ろを見ると、城太郎が従いて来ないので、武蔵はまた、十歩ほど引っ返して、彼の姿をさがした。

綿屋の横の蔵の下に、城太郎は小茶ちゃんと別れを惜しんでいた。武蔵の影を見たので二人はあわてて側を離れて、

「……左様なら」

「……あばよ」

城太郎は、武蔵のそばへ駈けて来て、武蔵の眼を怖れながら、時々振りかえった。

柳生谷の山市の灯は、すぐ二人の後ろになった。