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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《宮本武蔵(一)(みやもとむさし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 231,525 字 · 463 頁

青空文庫

「なんじゃ」

方丈で、誰かがいう。

「猫でしょう」

お通が、答えた。そして、夕餉の膳を下げて、武蔵のうつ伏している上の橋廊架をわたってゆくのである。

――あっ、お通さん。

武蔵は呼ばわろうとしたが、苦しくて声が出なかった。だが、それはかえって僥倖でもあった。

すぐ彼女の後から、

「風呂場は、どこじゃな」

と尾いて来た者がある。

寺の借着に、細帯をしめ、手拭をさげている。ふとあおぐと、武蔵には覚えのある姫路城の武士なのだ。部下や村の者に山狩をさせたり、夜昼のけじめなく捜索に奔命させたりしておいて、自分は、陽が暮れればこの寺を宿として、馳走酒にあずかっているという身分らしい。

「お風呂でございますか」

お通は、持ち物を下において、

「ご案内いたしましょう」

縁づたいに、裏へ導いてゆくと、鼻下にうす髯のあるその武士は、お通のうしろからいきなり抱きすくめて、

「どうじゃ、いっしょに入浴らないか」

「あれっ……」

その顔を、両手で抑えつけて、

「えいじゃないか」

頬へ、唇をすりつけた。

「……いけません! いけません!」

お通は、かよわかった。口をふさがれたのか、悲鳴も出ないのである。