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ばいりせんせいぎょうじょうき

梅里先生行状記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《梅里先生行状記(ばいりせんせいぎょうじょうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 209,260 字 · 418 頁

青空文庫

身こそ西山に退いて、藩政の一切を、嫡子の綱条や重臣たちに委しているが、決して、その自覚からのがれているわけではなかった。

かれが初めて、大日本史の編纂を思いたったのは、十八歳の時だったから、ことし六十五歳、四十七年目になる。

しかもなお、その業は、半ばであった。

それほど大がかりな、また多難な仕事であった。

初め、かれがその抱負を、人見卜幽とか辻了的などという学者たちに諮ってみても、たれもみな、

「お志はよろしいが、いかに副将軍のご威光と財力とをもってしても、そのような厖大な国史の編修など、所詮、いうべくして、できるものではありません。おそらくご成功は望み得ますまい」

と、諫めるばかりで、賛成するものはいなかった。

けれど、かれは、

「自分の一生でやりとげられなければ、二代三代をかけてやる。二代三代でも仕遂げ得なければ、子々孫々にわたっても」

と、誓って着手したのであった。

だからかれは初めから途中の多難も、今日の困苦窮乏にいたることも、知りぬいて、それを甘受している生涯なのである。

(――たれをか恨み、誰をか咎めんや)

藩臣のうちには、いまだにかれの心事もわからず、その事業に対しての不平やら、あげつらいやら、またこういう際にも、汲々と自閥の利と勢力扶植にばかり策謀しているものも多い。