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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《江戸三国志(えどさんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 頁

青空文庫

夜霞のあるせいか、江戸川の窪の向うに、いつもは近く見える矢来の天文櫓の灯が、今夜は、海のあなたほど遠く見える。

「なあ、馬春堂」

「ウーム?」

「陽気もだいぶ楽になったなあ、今夜あたりが、おぼろ夜っていうやつだぜ」

「そうさ、俳諧にもあったっけ」

「俳諧ってなあ、なんだい」

「そう聞かれちゃ、ちと困る」

「おめえもやるのかい」

「多少は心得がある」

「悪党の癖にしやがって、俳諧なんて作る法はあるめえ」

「悪党だって、絵の上手なのも居るし、家で盆栽をいじっている奴もある。現に、木鼠の三公なんかは、巾着切りは下手だが、伝馬牢へ入ると、時々、句を作って出てくるそうだ」

「量見のよくないやつだ。おれなんざ、おぼろ夜となれば、ひとりでに考え方が違ってくる」

「どう違うのかな?」

「やたらに、仕事がしよい晩だと思って、気が研げてきて仕方がない。――どうも馬春堂、おめえは少し、悪党にしちゃ半端でいけねえ。もう少し苦汁が抜けて来そうなもんだ」

ぶらぶらと歩いてくる二ツの人影。

やがて、二本松の石神堂で足を止めると、伊兵衛は肩の振分を下ろして、

「ウム、仮面箱を隠しておくにゃ、ここはお誂らえにできている」