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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《江戸三国志(えどさんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 頁

青空文庫

かれが掴んだのは女の黒髪と衿元で――まだ正気のあったらしいその女は、無我夢中になって、ビッショリとぬれた両腕をあげて、金吾の足へすがりついて来る。

「しっかりいたせ! これ女中」

水を吐かせようとするのと、気を張らせようとする用意で、わざと邪慳に胴中をすくい上げてから呼びました刹那、

「おっ、相良さん――」

なんという不意でしょう。こう言った女の声です。

「えっ……」と金吾。

抱きかけた黒髪のベットリついた女の顔を、空明りによくよく見ると、それは思いがけないというよりは、彼にとって、むしろ怨霊のように見えたかも知れません――あのお粂です、丹頂のお粂です。

「あっ! ……」

と金吾が驚きを投げた途端に、そこでザッと水しぶきが上がりました。そして、彼の白い影が、逃ぐるが如く、川洲から崖へ駆け上がった時、それと反対な川下へ、黒い水巴が渦巻いて行きました……

一度救われかけたお粂は、金吾に救いの手を放されて、また十数間水に押されてゆきましたが、幸い、浅瀬の柵に体が引ッかかったので、身ぶるいしながら這い上がり、そこでばッたりと、気を失って倒れていました。

と、やがてのこと。