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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《江戸三国志(えどさんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 頁

青空文庫

「じゃしかたがねえ、我を折って、ほかの道を探すとしよう。だが金右衛門、今もいったとおり、下へ着いてから見当がつかねえから、その帯を丸めて、ここから真っ下へ投げておいてくれ」

「帯をか?」

「そうだ」

「目印にだな?」

「ちょうど其処いらが、月江の落ちて行った辺だろう」

「なるほど、そいつは妙案だ。西陣だが浮織だが知らねえが、このあでやかな女の帯を、谷底へ抛っておけば、どこへ引ッ懸っても夜でも目につくにちがいない」

「だが、途中で風に攫われないように」

「おっ、心得た」

と金右衛門は、断崖の這い松に引ッかかっていた月江の帯を輪に巻き、谷底を目がけてポーンとそこから真っすぐ下へ抛り投げました。

無風状態のようでいて、絶えず底から吹き上げている渓谷の冷風。

――途中からサッとなびいて、一筋に長く解けた女の帯は、色鳥の尾か、雲から捨てた天の羽衣の如く、ひらひらと虹を描きつつ、その行方を見えなくしました。

しかるに、その時です。

小仏の峰を裂いて西へ落ちる星影川の渓流に沿うて、しきりと、人でも探すように歩いていた御岳行人らしい白衣の男が、

「おや、何だろう」

行者笠とよぶ荒編の被りものに手をかけて、虚空から舞って来た不思議な色彩に気をとられて立ちどまりました。