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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《江戸三国志(えどさんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 頁

青空文庫

……それと、稲吉の生死もわからず、今夜は妙に気がせくから、これでお別れといたしますぜ。なに、また隙を狙っちゃあ、ちょいちょいと会いに来ます。法達さん、ごめんなさいまし」

こういうと、九兵衛はひらりと方丈の庭を出て、本堂の横から山門へななめにすたすたと踏み出しました。

そして、葷酒山門に入るを許さず――の石段まで来ますと、ぷーんと酒くさい人間が摺れちがって行ったので、

「こう、八じゃねえか」

と呼びとめました。

「だ、だれでエ。お、おれを呼ぶなあ……」

「だらしのねえ返辞をするない、おれだよ、厚木の九兵衛だよ」

「えっ秦野屋の親分で?」

と、寺男の八助は両手を膝に突っ張って、蛙腰に相手の姿を見上げながら、

「なアるほど……親分にちがいねえや。どういう風の吹廻しか、この頃はこの甲府へ、いやに物騒な親分ばかり集まりましたね」

「はははは。てめえだって、あまり物騒でない方の人間じゃあるまい」

「なに、もう泥棒稼業は、とうの昔に足を洗っておりますよ。あ、あれ……、あれをごらんなすってください、弘法大師御夢想ぐすりの鼻神湯ッていう鼻のくすり。あいつア、あっしと法達兄貴とて、夜なべに薬研にかけているしろものです。