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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《江戸三国志(えどさんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 頁

青空文庫

「いいえ、宵に伺いました者で」

と九兵衛が腰をかがめております。

「アア、お前さんか――」

「最前おあずけ願いましたお侍様、あれからどんな様子でございましょうな」

「こなたは、どうしたというこッちゃ。突然、わしの家の玄関先へ、正気のないお武家をかつぎ込んで来て、自分の言いたいことだけを言って、スタスタ行ってしまいなすッた」

九兵衛はとぼけた爺さんのように頭をかいて、

「はい、何とも先程は、申しわけのないことで。実はその、ほかにも連れがありまして、いろいろと急場な用をひかえていたものでございますから」

「いくらせわしない事があったにせよじゃ、あんな得態のわからぬ容体のお武家を、玄関先に抛り込んで、逃げるように行ってしまうなんて怪しからん仁があるものではない」

「おそれいりました。まったく申し訳のないことで」

「ではすぐにでも戻って来ることかと思えば八刻になっても九刻過ぎになっても、一向やって来そうもない。で、しかたがなく、手当だけはして、一間に寝かせておきましたじゃ」

「有難うぞんじます。それでは早速、手当を加えてくださいましたか」

「医者の玄関に抛り込んで行ったものを、いくら見ず知らずじゃというて、手当をせんではおかれまい」