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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《江戸三国志(えどさんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 頁
無理に月江を引き入れた時に、閉め忘れた庭向きの一枚です。
折角、寝巻に着かえたのを、また着なおすのもおっくうな気がして、昼ならば、眼を射るであろう派手やかな長襦袢に帯を巻いて、スルスルと、白いその素足が氷のような板の間をすべってゆく。
「まあ、降るような――」
銀河を眺めて呟やきながら、ぶるッと、身ぶるいをして、そこを閉めかけましたが、どうしたのか、うごきもしない。
「おやっ?」
と見ると、動かない筈です、自分が手をかけた少し下に、五本の指が戸に掛って押えているのです。――自分の指は自分の指、それはいくらながめても、自分以外な者の指です。
ぎょッとして、おりんは、雨戸にかけた手を引っこめようとしましたが、蛇のように、するすると雨戸の桟を這って追いかけて来たその指が、ムズと、おりんの指先を掴みました。
「あっ……」
と、身をねじ曲げたのは、何か、黒い見上げるような影が、さっと、廊下におどり上がったので、人を呼ぼうとしたのですが、もう一方の薄べったい掌が、自分の口をおさえていて、どうする事もできません。
「しッ。……驚くことはない」
耳のそばで、こう低く言ったのは男の声です。