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しんしゅうてんまきょう

神州天馬侠

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《神州天馬侠(しんしゅうてんまきょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 頁

青空文庫

「おう!」

と答えて、ひとつの駕籠のまわりへ、警固についた者たちを見ると、おなじ黒布をかぶり黒衣をつけた吹針の蚕婆をはじめ、呂宋兵衛のふところ刀、丹羽昌仙、早足の燕作、このほか、腕ぶしの強そうな者ばかり、ひしひしと足なみをそろえた。

そして、あたかも、深岳の狼が、群れをなして里へでるごとく、列をつくって、天ヶ丘の石段を下りはじめる。中にはさんでいく一挺の鎖駕籠は――まさしく、桑名の羽柴秀吉へおくらんとする貴人の僧形、武田勝頼が幽囚されているものと見られる。

「やッ! 呂宋兵衛がいく、勝頼さまのお駕籠がいく」

それを見るや竹童は思った。寒松院の並木に待ちぶせている伊那丸やそのほかの人々に、すこしも早く、このことを合図してやらねばならぬと。――

といって――

狼煙のしたくをしているまには、おお、すぐそこにいる蛾次郎めが、クロの背をかりて、宙天へ逃げ失せてしまうであろう。

蛾次郎を見のがすぐらいは、虫ケラと思えばなんでもないが、いまここで、せっかくその姿を見たクロとふたたび別れてしまうのは、なんとしてもしのびない。いつまた、それが蛾次郎の手から、じぶんの手へ返ってくる時節があるかわからない。