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しんしゅうてんまきょう
神州天馬侠
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《神州天馬侠(しんしゅうてんまきょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 511,765 字 · 1011 頁
砦の灯は、夜はまったく隠されてあるので、このあたりの重畳たる山の起伏に、どれが目ざす小太郎山か、宙に迷いめぐっていた鞍馬の竹童も、やっと、その音を聞きあてた。
こころみに鷲の上から、下界へ向かって、声いっぱいに、
「咲耶子さまーッ」と呼んでみる。
小手をかざしてみれば、いちめんの高原植物、月光と露に繚乱たるなかに、ぽちりと、ひとりの少女のすがたが、ありありと立って見えた。
少女は笛で呼んでいる。
竹童もまた声をはって、
「咲耶子さまア。咲耶子さまアー」
巨大なる波紋を宇宙にえがきながら、だんだんに陣馬の地上へくだってきた。
ただならぬ怪影を見つけた砦の番士は、なにかとおどろいて、変を小幡民部につげた、その夜、自然城の山曲輪には、巽小文治と山県蔦之助も、虫の知らせか、しきりに伊那丸の安否や、随従していった忍剣と龍太郎から、なんの消息もないことなどをうわさし合っているところであった。
二
三方ヶ原をとんで、夜の空をいそいだ鞍馬の竹童は、そうして、小太郎山の同志へ、伊那丸の急変をもたらした。
かれは、かれの使命をとげた。一念を達した。
けれど、寝耳に水の変を聞いた、一党のものの驚きはどんなであったか。