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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

早馬でさえ、鎌倉までは三日路あまりといわれている。その三日目、輿の列はまだやっと、武蔵国比企郡の低い山すそ道を、入間川の方へさして行くのが小さく見られていたにすぎない。

「あと、幾夜を」

疲れも思わず、輿の遅さに、清子は途々さいなまれていた。――そしてまた、

「……このような国もとの大事を、良人の耳に知らせたものか、聞かせぬがよいか」

それもなお、途々、心に迷うところだった。

そのことは、彼女の胸だけにとどめ、家中でも老臣以外には、告げていないが、久しく鎌倉表にある良人貞氏は、もう長いこと病中だった。

これは子の高氏、直義すらも、知っていない。

世間もまた、それを貞氏の単なる公儀への“慎み”と見ているふうだが、事実は、寒い足利にも帰れぬほどな病態であり、鎌倉の気候が彼の療養にとって、別れえないものだったのが、いちばんの理由であった。

それゆえ、清子も、

「もし、このために、ご病気を重らせでもしてはならぬ。万一のときは、上杉殿を相談あいてに」

と、密かには、心にきめていたのである。――実兄の上杉憲房が、六波羅から帰府していると聞いているのが、このさい、ただ一つの力だった。