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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

「いやだなあ。昼のも夜のも、三度とも六波羅飛脚だったが」

「そうよ、六波羅飛脚が、こうぶッつづけに入るなんてときは、ろくなことがあった例はない」

――知ラシメズ、唯、拠ラシメヨ。という政治の制度下におかれていた庶民には、従ってまた、そんな些事にもすぐ“異”を感じる動物的な勘がするどかった。果たせるかな、それから一刻余の後、さらに夜半にかけてまで、鎌倉中の大地が馬蹄や人跫に鳴った。

おそらくは、あれから須臾の間に、政所の召ぶれが、幕府重臣の家々へ達せられたのではあるまいか。

小町、若宮などの大路附近の邸はもちろん、遠くは七切通し、谷々の屋敷からも、やがて不時の召にこたえて出た大身たちが、ぞくぞく、柳営内の駒ツナギに下馬しては、

「そも何事の?」

と、わき眼もふらぬ顔を硬めて、次々、奥へかくれ去った。

かかる晩にはまた、きまって、鎌倉じゅうの犬が、いやにいんいんと啼き吠えた。

例の、執権高時のお犬好きから、武家やしきでは軒なみ闘犬を養っていたし、わけて八幡宮の東の鳥合ヶ原は、その上覧桟敷やら御愛育のたくさんな御犬寮もある所なので、一犬の吠えが万犬の吠えをよび、その諸声は、鎌倉の海のとどろも打消して、陰々滅々、なんともいえぬ夜空の谺をなすのであった。