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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

生きたいためには、この人の意志を捻じ伏せずにはおかれないのだ。右馬介の眼はつり上がってきた。下の高氏は、なおさらである。赤ぐろい血相から飛び出しそうに出た二つの眼が、上の顔を睨まえている。

お互いのあらい呼吸は、しばし息と息だけで、相搏ッた。

そのままのかたちで。

「さ、どうです。……これが戦場ならば、あなたのお首はもうないところですぞ」

「くッ。……く、そ」

間髪、下からの手が、右馬介の横面を、びしッと撲った。しかしそれだけのものだった。高氏の四肢は、またたちまち、彼の力に畳みこまれてしまった。

「およしなさい、そんな児戯は。――十年の余も、あなたの傅役をつとめて来たこの右馬介。お年も下だ。しかし今は、あなたに負けては上げられない」

「ちッ、吐ざいたな」

「若殿、いや、こう呼ぶのも、いまがさいごだ。いまを限りに、右馬介はおいとまを頂戴いたそう。……門地ばかりお高くても、田舎大名の若党勤めなど、先行き何の望みも持てぬ」

「かッ。こやつ、仮面を剥いで見せたな」

「おう、これが本体かもしれぬ。右馬介も人間だ」

「下郎っ。正気か」

「あなたこそ、どうなんです。置文の秘を、この若党に知られたからといって、すぐ成敗するの、生かしておけんなどという主人に、一日たりと、仕えてなどいられるものか」