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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

何をば」

「ま、白々しい。白拍子やら遊女やら、いったい、どこの女と寝たんですか」

「ば、ばかをいえ。いつ、たれが」

「それ、ごらんなさい、その疚しそうな。……ええ、もう汚らしい」

「ならば、離れて寝ろ」

「寝かすもんですか」

「うるさいっ。ひとが疲れておるのに」

「そんなおつかれは、わらわのせいではございませぬ」

「そなたは、どうかしているな。今夜のそなたは」

「はいっ。これがどうもせずにいられましょうか。ですから、わらわは初めから、都住居などはいやじゃと申していたのでございましょう。それをあなたは、いや男の立身の道は都にある、そなたも都の水で磨いて、美しい輿にのせ、奈良も見せよう、男山へも共に詣ろうなどと、お上手なことばかり仰っしゃって……」

さめざめと、波路は後ろ向きに坐って、泣きはじめた。

いいあんばいである。泣くだけ泣かしておけば気がおさまるにちがいない。良人は小康をえた心地だった。そのまま空寝入りを持ちかけていたのである。

ところが、やがて泣きやむと、波路はするすると千鳥棚の下へ寄ってゆき、コトリと、櫛匣の蓋をとっている。上目づかいで、良人が見ているなどは、おそらく意識の外だったろう。