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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁
さ。良人を返して下さい。いいえ、良人の居る所を、あなたは確かに御存知のはず……」
「知らぬ。知るわけはない」
「まあ、しらじらしい」
ことばも尽き、波路はつかみかかりそうな血相を見せた。――が、そのとき、物蔭で立ち聞きしていた工藤右衛門次郎が、傍の武士に目くばせすると、武士たちは、つかつか入って来て、むりに波路の身を外へ拉し去った。
初めて、波路の泣き声が外に聞え、狂い狂い遠くへ消えて行った。
俊基、資朝の鎌倉押送は、あくる朝の十月四日、予定どおりに行われた。
卯ノ下刻(午前七時)に六波羅を出た二つの囚人輿は、まだ晩秋の木々や町屋の屋根の露も干ぬうち、はや蹴上近くにさしかかっていた。
本来ならば、この東下は、
放ち囚人(任意の出頭)
ということになっている。その公称からも、衣冠や乗物などすべて、護送するにも、平常の礼をとるべきなのに、事実は流刑の罪人と何の変りもない。
おそらく、六波羅の底意としては、
「これ見よ。関東の府にそむかば、きのうまでの朝臣たりとて、かくの如きものぞ」
と、路傍の見せしめとするのが目的の一つなのだろう。
そのためか、警固の兵もおびただしい。