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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁
「――お母アさま。ここです。お母あさま」
と、ふいに一人の小法師が立って答えた。
不覚。
こんな丘に、人の耳があろうとはと、虚をつかれたにちがいない。
「たれだっ?」
直義も、また高氏も、思わずその小法師の方へ、眼をそそいだ。
小法師の姿は、この真昼を、闇夜のように手さぐりしていた。身の丈をこえる穂すすきの穂を、ガサと分けて、彼も耳に怯えをうけたらしく、
「あっ。……直義さまでございますね」
と、雲へ問うように、顔を澄ました。
「おお、誰かと思えば、覚一だったのか」
「覚一でございます」
「さっきから、そこにいたか」
「はい」
「わしたちが話していたことを、聞くともなく、そこで聞いたか」
「……い、いいえ」
あわてて、首を振り、
「なにも存じません。ハイ。いつのまにかトロトロと居眠っていたのでしょうか。母の呼ぶ声に眼がさめました。そしたら、あらぬ方で、べつなお声がしたので、またびっくりしてしまったんです。――そこには、高氏さまもご一しょでございますね」
「覚一。久しかったなあ」
「おおそのお声。……おなつかしゅうございまする」
「そちとは、都の六波羅で、別れたきりよの」