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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

右馬介は一命をかけても引き止めたい。

「や。あの船着小屋の人立ちは」

不承不承な彼にひきかえ、一方は急に大股となった。見ていると、又太郎はもう人中に紛れ込んで、何やら雑人たちの高ばなしに耳をすましている様子。それをこなたの右馬介は、磯石に腰かけこんで、なおさいごの思案に沈んでいた。するとまた、駈け戻って来た又太郎が、こう叫んだ。

「やよ、右馬介。帰ろう。帰ろうっ。どうやら北の国で戦乱が起ったらしいぞ。遍歴などはしておられぬ。すぐ東国下野へ馳せ戻ろうわい」

右馬介は耳を疑った。

何か、ありえぬ空音のように聞えたのである。

「えっ、北方の戦乱ですッて。戦乱が起ッたと取沙汰しているのでございますか」

武家の扶持を食う身が、戦乱の一語ぐらいで、寝耳に水の驚きをうけたのは、いささか不覚と省みたりしたことも、よけい彼を戸惑わせたものかもしれない。

もとの船宿の方へ、引っ返してゆく又太郎を追って、もいちど、念を押してみた。

「北方の乱とは、もしや九州沿海のお聞き違いではございませぬか。北にはあらで、南なら、うなずけますが」

「なんで」

「元寇の国難も、はや四十年の昔とすぎておりますが、蒙古再来の脅えはいまだに失せておりません。