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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁
「どこへ隠したっ。女めを探し出せっ。――藤夜叉をどこへやったぞ」
日ごろの高時の声でもなかった。獣声にちかい、五韻を外れた喚きである。
さえぎる家臣は、見さかいもなく、薙ぎ払われ、蹴仆された。いちど、西廂から釣殿までを雷鳴のように暴れ廻っていた高時は、やがてまた、とって返して、
「楽屋はどこぞ」
と、舞台わきの細殿を覗き、そこの簾を一閃にバラと斬り落した。
大勢の田楽役者の男女も、まっ暗な中で、ただわななき伏していたことだろう。さっきから楽屋の内は、墓場みたいにしいんとしていた。――そこへキラと、薙刀の光が流れこんで来たのである。無理はない、キャッと一せいに、躍りあがった。
ところが、それは高時の酒狂上の発作を、つい真物の発狂沙汰にさせてしまった。――なぜなれば、むらがり立ッたものは、人間でなく、ことごとく烏天狗であったからだ。
これは、大和田楽の組と、花夜叉の組が申しあわせて、こよいの最終に“天王寺の弱法師”と称する一法師と天狗群の大舞を演ずるための扮装だった。それの出を待つうちに、この騒動とはなったのである。
だから、楽屋じゅうの驚愕もさることだったが、高時にも、彼らの悲鳴が、化け物どもの鬨の声と聞え、またその逃げまどいが、物ノ怪の踊りと見えたのは、ぜひもない。